PHSへの愛 ウィルコム
http://it.nikkei.co.jp/mobile/news/index.aspx?n=MMIT0f000016112006
音声定額の元祖・ウィルコムにあって、ケータイにないもの【コラム】
ウィルコムの喜久川政樹社長
10月26日に経営陣が刷新されたウィルコム。番号ポータビリティーで活気づく携帯電話各社を横目に、PHSのウィルコムは今後、どんな舵取りをしていくのだろうか。(石川温のケータイ業界事情)
■「わかりやすさ」を売りにする元祖音声定額
ソフトバンクが、制限付き音声定額プランで世間の耳目を集める中、「元祖音声定額プラン」で頑張っているのがウィルコムだ。2005年5月に月額2900円で音声通話定額制を実現するやいなや契約者は急増。いまや425万契約を突破するまでに急成長を遂げた。DDIポケット時代には300万契約を切ることもあったくらいだから、いかに急激に巻き返しているかがよくわかる。
15日に新経営陣による説明会を開いたウィルコムは、ソフトバンクの「0円」に対抗すべく、元祖として「わかりやすさ」を売りにするという。月額2900円のみ、070番号宛の音声通話、Eメールはすべて定額(無料)というシンプルな設定を訴求する。「うちは注釈がほとんどない」(土橋匡副社長)というように、注意書きが小さな文字で欄外に表示されているソフトバンクとの違いをアピールする。
ウィルコムでは、10月20日にウィルコム間同士だけでなく、NTTドコモ、旧アステルといった「070番号」のすべてを定額の対象とした。ソフトバンクの定額制の場合、090や080といった番号だけでは相手がソフトバンクなのかNTTドコモやauなのか判別できず、話し始める前に音声定額の対象かどうかをいちいち確認しなくてはならない。その点、「070=定額」というのは、誰にでもわかりやすいといえる。
■ウィルコムとの対比ではソフトバンクも十分に儲け過ぎ
土橋匡副社長の発言のなかで、興味深いデータがあった。「ウィルコムの定額プランを契約するユーザーを分析すると、午後9時-午前0時59分に使っている割合が1日のトラフィック全体の約55%を占める」というのだ。
たった4時間という短い時間ではあるが、1日の半分以上のトラフィックが集中している時間帯というわけだ。この4時間というのはソフトバンクが「制限」として設定している時間帯。ソフトバンクはこの間の通話は月間200分を超えると30秒21円課金するようにしている。ウィルコムとしては、この時間帯設定がいかにユーザーを無視したものであるかと言いたいようだ。
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ウィルコムのARPUも下げ止まってきた
ウィルコムのARPU(ユーザーが1カ月に支払う通信料金の平均値)は、4040円(2006年度上期)。携帯電話事業者の6000~8000円程度に比べると、かなり低いと言わざるを得ない。しかし、「8月以降は単月で黒字を計上している」(喜久川政樹社長)というように、低コスト体制を実現し、低ARPUでも儲かる仕組みを構築している。
ソフトバンクの孫正義社長は「携帯電話会社はどこも儲けすぎ。我々は利益をユーザーに還元することで、魅力ある料金にしていきたい」と語ったことがある。しかし、ウィルコムから見れば、ソフトバンクも「十分に儲けすぎ」と言えるかも知れない。
ウィルコムでは「W―OAM」(WILLCOM Optimized Adaptive Modulation)という新しい規格をすでに導入。408kbpsの高速サービスを実現している。この「W―OAM」は高速化だけでなく、変調方式を自在に変えることにより、ビルや屋内といったこれまで電波浸透の悪かった場所でも使えるようになり、さらには移動時の通話品質も向上するようになっている。2007年以降は、基地局回線のIP化などにより、800kbpsを超える通信速度を実現するという。
■差別化のポイントは「愛」?
「W―ZERO3」もヒットした
料金のわかりやすさ、低コスト体制、技術の進化などで、携帯電話会社と差別化していくウィルコム。だが、最も携帯電話会社と違うのは、そこに「PHSへの愛」があふれているという点かも知れない。
音声定額プランが導入された際、まず飛びついたのはDDIポケット時代から愛用していたユーザーだった。彼らが率先的に使い、口コミで広げていったことで、急速にユーザーが増えていった。
また、ウィルコムには熱心なファンによる応援サイトがいくつも存在する。彼らの情報収集力などは専門情報サイトに匹敵するほどであり、そこに集まる人たちが自然とウィルコムを持ち始めるという環境があった。
さらに新しくなった経営陣はいずれも10数年前から、PHSシステムに取り組み、PHSの可能性を信じて邁進してきた人ばかりだ。
NTTドコモの場合、PHS事業を展開していたNTTパーソナルを吸収合併しつつも、「次世代の通信サービスの主役はW-CDMAだ」という信念でFOMAを立ち上げ、PHSをないがしろにしてきた。
しかし、DDIポケットにはPHSしかなかった。彼らはいくつもの失敗をしたが(初のテレビ電話機もDDIポケットが一番はじめに製品化している。またカメラ対応もかなり早かった)、PHSをこよなく愛し、技術的な開発を地道に行ってきたのだ。
そして、ここに来て、音声定額プランやW-ZERO3といったヒット端末により、ようやく花が咲いたというわけだ。
今後、WiMAXといった新しい高速通信技術が登場することにより、PHSはいまのようなアドバンテージがなくなってしまうかも知れない。また、全国に16万の基地局を配しているウィルコムは、次世代PHSといった高速化を実施する際、相当数の基地局を入れ替えるためにさらなる投資が必要になってくるといった不安要素もある。
■個性で携帯電話業界をかき回す可能性は十分ある
ウィルコムは半期で1230億円の収入、425万契約と携帯電話会社に比べて本当に小さな存在ではある。しかし、小さいからこそ、個性的な端末やサービスを投入できるという強みがある。
世間は番号ポータビリティーで騒いでいるが、この制度から蚊帳の外であるウィルコムが、今後も携帯電話業界をさらにかき回す可能性は十分にありそうだ。
[2006年11月16日]
- 筆者紹介-
石川 温(いしかわ つつむ)
略歴
日経ホーム出版社に入社し、月刊誌『日経Trendy』編集記者に。ケータイ業界を中心にヒット商品、クルマ、ホテルなどを担当。2003年にジャーナリストとして独立した後、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広くケータイに関する記事を執筆。テレビなどにも多数出演。近著に、各キャリアの番号ポータビリティ戦略と、コンテンツ事情を取材した『Web2.0時代のケータイ戦争-番号ポータビリティで激変する業界地図』(角川書店)がある。
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