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【インタビュー】W-ZERO3[es]開発陣のこだわり、ウィルコムとシャープに聞く

http://pc.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20060713/243323/?ST=pc_news

 ウィルコムは、OSにWindows Mobileを採用したスマートフォンの新製品「W-ZERO3[es]」を発売する(PC Online関連記事)。2005年12月に発売された「W-ZERO3」を小型化し、携帯電話機としての使い勝手も向上させた機種だ。同製品の商品企画に携わった、ウィルコム 営業開発部 企画マーケティンググループ 課長補佐の須永康弘氏と、シャープ 情報通信事業本部 新携帯端末事業部 第1商品企画部 主事の廣瀬泰治氏に開発の舞台裏や、製品に込められた開発チームのこだわりを聞いた。(聞き手は金子 寛人=日経パソコン)


「2カ月前倒しできませんか」「なりません」


■W-ZERO3の発売から半年で、派生機種であるW-ZERO3[es](以下、es)を発売することを発表した。早い段階でこうした派生機種を作ることを計画していたのか。

廣瀬 W-ZERO3が発売された時点で、次の製品もやりたいという提案をウィルコムから受けており、メーカーとしてそれは異論のないところだった。

須永 「やりましょう」と決めるのが先で、細かい仕様については開発をしながら詰めていくという状況だった。例えば、esとW-ZERO3でソフトウエアの互換性を確保することや、esには無線LANを搭載しないことなど、大きなところは最初の段階で決めていたが、プリント配線基板の回路設計や、esで新たに搭載したテンキー部のボタン配置、十字キーの仕様などは後から詰めた。

 通常であれば、あらかじめ細かい仕様まで決めてから設計にかかるところだが、それをやっていると開発スケジュールが遅れてしまう。W-ZERO3の時もハードだったが、esの開発はそれ以上にハードだった。

W-ZERO3[es]の商品企画に携わった、ウィルコムの須永康弘氏(左)とシャープの廣瀬泰治氏


■W-ZERO3を発売してから開発に取りかかったとなると、わずか半年という短期間の開発スケジュールだったことになる。その中でユーザーの意見も反映した製品を出すとなると、相当に余裕のない開発工程になったのではないか。なぜそんな急ピッチで開発を進めたのか。

須永 ウィルコムとしては、どうしても7月に発売したいという思いがあった。実は今回、シャープへ最初に話を持って行ったとき、シャープの開発チームから提案いただいたスケジュールは2006年秋発売となっていた。専門家が3~4週間考えてその結論が出たのだから、やはり9カ月くらいは確保するのが妥当だったのだろう。しかしウィルコムとしては、夏のボーナス商戦に向け新しい製品を必要としていた。

W-ZERO3[es]。W-ZERO3をベースに、胸ポケットに収まるサイズへ小型化し、片手で簡単に操作や入力ができることを目指した

 そこで、シャープの開発チームに「2カ月前倒しすることはできないか」と聞いた。当然、最初は「なりません」と断られたのだが、「了解いただくまで帰りません」と頼み込み、最終的には根比べで了承してもらった。

 限られた時間の中で開発を進めたわけで、それに伴うリスクは常に抱えている。開発チームの技術者1人ひとりの仕事に、1つでも穴があれば、それがそのまま製品に潜んだ欠陥として世に出てしまうわけだ。そうしたリスクを取ってでもスピードを重視して開発をしてくれるメーカーはシャープくらいしかない。当社(ウィルコム)社長の八剱(洋一郎氏)は製品発表の記者会見で「esを開発できたのはシャープだからこそ」と発言していたが、これは八剱だけでなく、ウィルコムの幹部全員が実感していることだ。

廣瀬 引き受けると決めた以上は、納期は厳守しなければいけない。これを実現するために、外観のデザインや内部のハードウエア設計、ソフトウエアの開発といった複数の工程を、連絡を密にしながら同時並行で進めていった。併せて、社内の稟議などに必要以上の時間を取られるわけにもいかないので、ある程度の決裁であれば口頭でもゴーサインを出してもらうなどして、時間を節約した。開発した製品の使い勝手を確認するユーザビリティーテストは、シャープの開発チームが自ら被験者となって実施した。このように、地道なプロセス改善の積み重ねで開発期間を少しずつ短縮していくことを図った。人員などの開発資源を大幅に増やすといった手段は採っていない。


「W-ZERO3は15万台売れたが、50万台は売れない。その限界を突破したい」


■派生機種であるesを作るにあたり、どのような設計思想で開発に取り組んだのか。



「W-ZERO3は15万台売れたが、50万台は売れない。その限界を突破したい」


■派生機種であるesを作るにあたり、どのような設計思想で開発に取り組んだのか。

須永 W-ZERO3はこれまでに15万台を売り上げ、予想以上の大きな反響を得た。しかし逆の言い方をすれば、W-ZERO3だけで50万台を突き抜けるには限界があったと考えている。

 限界として分かりやすい例が、W-ZERO3の電話としての弱さである。私がW-ZERO3で通話をしていると、周りにいる人から笑われることがある。また、家電量販店の店頭でも、W-ZERO3に興味を持ち、10分~20分とサンプル品を触っている人をしばしば見かけるが、結局買わずに帰る人も多い。そうした人たちに話を聞くと、やはり「電話機能が弱いという点で決断できない」との声を聞くことが多い。ウィルコムとしてはW-ZERO3に電話機能を付けているわけだが、W-ZERO3を携帯電話機とみなしてもらえるかどうかはユーザーが決めることである。そうした点がesの開発に取りかかる背景にあった。


■きょう体を小型化する上で、ハードウエア設計においてどのような工夫を施したのか。

須永 ハードウエア設計のレベルで実現したかったのは、具体的に言えば、携帯電話機らしい外観と操作体系を持つこと、そして胸ポケットに余裕で収まる厚み、幅、重さにすることだ。一方、640×480ドット(VGA)の液晶ディスプレイは、W-ZERO3の最も基本的な要素であり、譲れなかった。W-ZERO3では、電子メールやWebサイトの閲覧をパソコンと同様に使ってもらえることを目指しているからだ。

 液晶ディスプレイについては、当初は2.5型、2.6型、3型などさまざまな候補があった。その中で、きょう体の幅が片手に収まるサイズで設計できること、Windows Mobileで文字サイズを「最小」にしても文字を判読できること、という2つの条件を満たす品種を選んだ。ただし、esで採用した2.8型でVGAの解像度を持つモバイルASV(Advanced Super View)液晶パネルというのは、当初の選定時にはまだ製品化されておらず、別の品種を採用する予定だった。その後、シャープの小型液晶パネルの開発部門がesのために2.8型品の開発スケジュールを前倒ししてくれたので、esの発売に間に合わせることができた。

W-ZERO3の3.7型に対し、esのディスプレイは2.8型。シャープ製の汎用品だが、esの発売に間に合わせるため、開発スケジュールを前倒ししたという

廣瀬 ある程度長期の開発期間を確保できるならば、専用LSIを起こすことも可能だが、今回のように短い開発期間の中で、部品を一から開発している余裕はない。そのため、小型の電子部品を積極的に調達することと、プリント配線基板上での部品配置の工夫を重ねることで小型化を実現した。

 例えば電源ICの調達に際しては、W-ZERO3は3社の部品から選定したが、esでは10社に広げた。また電波状態などの表示に用いるLEDも、W-ZERO3より低消費電力の品種を採用した。一方で、内蔵のリチウムイオン2次電池の容量は1500mAhでW-ZERO3と同じにしている。これは電池パッケージの形状を変更し、幅や厚さを調整することで実現した。

消費電力を抑え、約500時間の連続待ち受けを実現するため、個々の部品レベルで地道に省電力化を図った。LEDも従来品より低消費電力の品種を選び出したという

 これらの工夫により、W-ZERO3では約200時間だった連続待ち受け時間を、esでは約500時間に延ばした。実使用の場面で言えば、例えばオフィスに充電器を置いているユーザーが、週末に自宅へ充電器を持ち帰る必要があるかないかがこれで変わってくる。PHS端末において500時間は標準的な水準で、機種によっては1000時間というものもあり、電池の持ちという点で見劣りさせたくなかった。

 電子部品の調達においては価格も大きな要素となるが、これについてはW-ZERO3の販売が好調に推移していることもあり、調達元の部品メーカーも好意的に対応してくれた。定量的に示すのは難しいが、W-ZERO3の好調が、esの部品調達においてプラスに働いたという印象は確実にある。

上がW-ZERO3、下がesの内蔵リチウムイオン2次電池。形状が大きく異なるが、容量はいずれも1500mAhだ

上に載っているのがes、下がW-ZERO3のリチウムイオン2次電池。esの方が若干厚みがある。中に入っているセルは外部調達品なので、小型のきょう体に収めるためにパッケージの形状を工夫したことがうかがえる


無線LANを見送り、QWERTYキーボードにこだわったワケ


■W-ZERO3に搭載していた無線LAN機能をesで省いたのは、どのような理由からか。


無線LANを見送り、QWERTYキーボードにこだわったワケ


■W-ZERO3に搭載していた無線LAN機能をesで省いたのは、どのような理由からか。

廣瀬 今回は、主に実装面積を勘案して見送った。確かに無線LAN機能をほしいというユーザーは多いだろう。しかし、無線LANが本当にすべてのユーザーにとって必須であるかどうかを考えた。そして、無線LANを付けた結果、幅が1cmでも膨らんでしまうのは、あってはならないことと考え、搭載しないことにした。その代わり、esではUSBやSDカードスロットなどを経由して、各種の周辺機器を外付け可能な設計にしている。無線LANモジュールもそう遠くない時期に発売される予定だ。


■W-ZERO3で搭載したQWERTY配列のキーボードは、esでも踏襲している。きょう体の小型化を図る上でキーボードを付けることについては、議論があったのではないか。

須永 esの小さなきょう体でもW-ZERO3と同様にキーボードを付けたのは、「W-ZERO3がどこでユーザーの支持を集めたか」を考えた結果だ。ユーザーに価値を認めていただけている部分を削ってはいけない、そうでないと、W-ZERO3やesが普通の携帯電話機と同じだと思われてしまい、製品としての差異化ができなくなってしまう恐れがある。それは避けなければいけない。そのためには、QWERTY配列のキーボードや、VGAの液晶などは必須だと考えた。

 もちろん、esの開発に際してキーボードをどうするかという点は検討課題として挙がっていた。最初の企画会議では、開発チームの1人ひとりが自由に案を出し合い、その中にはキーボードをなくすというものもあったが、議論を進める中でやはりキーボードは残すべきだという結論になった。

 ちなみに、W-ZERO3では5段配列だったキーボードのうち、数字が並ぶ最上段だけを取って4段配列にするという案もあった。esではキーボード部の縦幅がW-ZERO3より短くなっており、その中に一定の大きさのキーを配置することを念頭に置いた案であった。しかしシャープの開発チームに5段配列のキーボードを試作してもらったところ、個々のキーがW-ZERO3より小さくなっても、入力のしやすさにさほど違いは出ないことが分かり、狭ピッチの5段配列のキーボードを採用することにした。

esとW-ZERO3のキーボードを比較したところ。esではキーボード部の奥行きが短いものの、ボタンの数は減らさずに、狭ピッチ化することで配置している

廣瀬 シャープでは携帯型情報端末(PDA)「Zaurus(ザウルス)」の開発を通じて、小型でも打鍵しやすいキーボードの研究を永年続けている。W-ZERO3はZaurusの開発チームが担当していることもあり、PDAの開発で培ったノウハウをW-ZERO3やesに生かすことができた。

 QWERTY配列のキーボード以外にも改良を加えている。例えばW-ZERO3では、十字キーと決定ボタンが押しづらいという声が寄せられている。これを踏まえてesでは十字キーの打鍵性を改善した。


■十字キーについては、操作性を重視するならば、例えばダイヤルキーにしてスクロールを容易にするといった手法もある。こうした改良については検討しなかったのか。

廣瀬 W-ZERO3でもesでも、OSにWindows Mobileを採用している。Windows Mobileは一貫した操作体系を確立している。メーカーとしてそこに独自の拡張を加え、ダイヤルキーを付けたりダイヤル操作用のデバイスドライバーを追加したりするよりも、今回は十字キーの大きさや打鍵性を改善する方が良いと判断した。

esで追加されたテンキー。丸い形をしている十字キーは、W-ZERO3のものより打鍵しやすく改良したものを搭載している


IMEでもケータイShoinでもなく、ATOKを必要としていた


■ソフトウエアでは、独自開発のメールソフト「W-ZERO3メール」と日本語入力ソフト「ATOK」をesで追加した。これはどのような方針で搭載したのか。





IMEでもケータイShoinでもなく、ATOKを必要としていた


■ソフトウエアでは、独自開発のメールソフト「W-ZERO3メール」と日本語入力ソフト「ATOK」をesで追加した。これはどのような方針で搭載したのか。

廣瀬 W-ZERO3では、Windows Mobileに標準添付されている「Outlook」と「Microsoft IME」を採用していた。esでも一応、これらのソフトを搭載はしている。しかしesでは、例えばメールソフトを起動して、受信メール整理用のフォルダーを切り替えたり、メールの本文を書いて送信したりといった操作を、片手で簡単にできるように設計する必要があると考えた。それを実現する上でW-ZERO3メールとATOKは欠かせないと判断した。

 日本語入力ソフトとしては、シャープは自社製の「ケータイShoin」というソフトも持っている。しかしesにおいては、QWERTY配列のキーボードとテンキーの双方において、快適に入力できることを念頭に置いた。その意味でATOKは、パソコンで広く使われている上、携帯電話機での採用事例も多くあり、esに搭載するには最適と考えた。W-ZERO3メールは、Zaurusに搭載していたメールソフトを基に開発したものだ。


■W-ZERO3では、個人ユーザーの引き合いが多いものの、法人向けの引き合いはまだ少ないと聞く。ウィルコムとしては、今後法人向け市場をどのように開拓していくか。

須永 W-ZERO3を端末として採用した法人向けのシステム製品が増えてくるのは、もはや時間の問題と考えている。

 すでに、いくつかのSI事業者が開発に取り組んでいる。いずれのSI事業者も、Windows CEを用いたシステム製品は開発した経験があるものの、Windows Mobileに取り組むのは初めてというところが多く、ノウハウの蓄積に時間がかかっている。また、国内の法人向けシステム製品は、大なり小なりカスタマイズが必須となる。機器やソフトウエアをパッケージとして作るだけではダメで、フェイス・トゥ・フェイスの営業力が欠かせない。

 とはいえ、既に数千社、それも上の方の数千社でW-ZERO3をテスト導入してもらっている。Windows Mobileという汎用OSを採用したことは、法人向けシステム製品を作る上で大きな強みになっている。近い将来、パソコンと同じく、様々なソフトを組み合わせたり選んだりして、システム製品を導入してもらえるようになるだろう。他の携帯電話事業者もスマートフォンを用いた法人向けシステム製品の開発に取り組んでいるが(ITpro 関連記事)、ウィルコムは他社より早期に取り組んだこともあり、優位性を確保できると考えている。


■W-ZERO3とesの開発を通じて、強いてやり残したことを挙げるとすれば何か。

須永 今の段階では、esで実現したいことは実現し尽くしたと考えている。強いて挙げるならば、es以上に薄く、軽い製品の開発に取り組んでいきたい。もう1つは動作速度の改善だ。携帯電話機とは馬力が違うとユーザーに実感いただけるような製品を作っていきたい。

廣瀬 パソコンの世界では、アプリケーションソフトを自由にインストールして、手軽に使うことが当たり前になっている。それが当たり前にできることが、パソコンの世界の広がりに寄与していると思う。W-ZERO3やesにおいても同様に、ソフトウエアを手軽に自由に使える環境を実現していきたい。

         

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