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開発陣に聞く「EM・ONE」:“むちゃなお願い”から生まれた「EM・ONE」――その開発経緯とは?

イー・モバイルのシャープ製端末「EM・ONE」。なぜ、第1弾端末がPDAタイプなのか。また、大画面液晶、ワンセグ、デュアルスライド機構はどんな経緯で搭載されたのか。開発陣に聞いた。

photo イー・モバイルの第1弾端末が、シャープ製の「EM・ONE」だ。

http://plusd.itmedia.co.jp/mobile/articles/0703/30/news125.html

 3月31日から携帯電話事業を開始するイー・モバイルの目玉製品として登場するのが、Windows Mobile搭載端末「EM・ONE」だ。4.1インチの大画面液晶に独特のスライドギミックを備え、PC接続した場合も含めて月額5980円で使い放題という定額制の料金プランも魅力。大きな期待が寄せられている。

 EM・ONEはPDAタイプの通信端末で、日本のスマートフォン市場を活性化させたウィルコムの「W-ZERO3」シリーズと同じシャープ製だ。イー・モバイルは、2008年3月まではデータ通信サービスしか提供しないため、EM・ONEは通話機能を持っていない。カード型やUSB接続型のデータ通信用端末だけでなく、PDAタイプの製品を投入したのはどんな意図があったのだろうか。

 イー・モバイル 商品開発本部 移動機統括部 部長の松坂貴弘氏と、同 移動機開発部 主任の福山毅氏、シャープ 情報通信事業本部 通信融合端末事業部 主事の丸山晋由氏の3人に話を聞いた。

photo 左から、イー・モバイル 商品開発本部 移動機統括部 部長 松坂貴弘氏(左)。同 移動機開発部 主任 福山毅氏(中央)。シャープ 情報通信事業本部 通信融合端末事業部 主事 丸山晋由氏(右)

イー・モバイルのビジネスコンセプトを体現する「EM・ONE」

photo 松坂氏は、「『EM・ONE』によってイー・モバイルというキャリアの特徴を強く押し出したかったと」話す

 松坂氏は、イー・モバイルが新規参入するに当たって、コンシューマーへの認知度を高める必要があり「キャリアとしての特徴を出さなければならなかった」と話す。イー・モバイルの親会社は、ADSLのブロードバンド回線をホールセールするイー・アクセスだ。NTTドコモやKDDIなど既存キャリアは、音声からデータ通信へシフトした経緯があるが、イー・モバイルはその逆。PC向けのブロードバンドサービスからモバイルブロードバンドへこぎ出し、データ通信から音声(電話)へサービスを拡大する。こうしたコンセプトを明確にする端末を、第1弾として企画したという。

 松坂氏は「当初は音声しか頭になかった」と明かす。しかし、イー・モバイルの音声サービスの提供が2008年からとなり、データ通信サービスのみで開業する運びになった。「“ブロードバンド”という原点に立ち返り、音声にこだわらずに、開業時期(2007年3月末)に出せるベストな端末を出そう」と考えた結果、上記のようなコンセプトを進めることになった。

 EM・ONEのプラットフォームにWindows Mobileを選んだ理由は、OSとしてのWindows自体が広く普及しており、コンセプトを検討していた当時はWindows Mobile搭載端末があまり市場になかったため、「新しい感じがする」(松坂氏)というものだった。

 Windows Mobile端末といえば、ウィルコムのシャープ製W-ZERO3シリーズが真っ先に思い浮かぶ。同じメーカーということもあるが、W-ZERO3は EM・ONEの開発に影響を与えたのだろうか? 松坂氏は「W-ZERO3のことは(当時)知りませんでした」と話す。

 イー・モバイルは2005年11月に総務省から事業者免許を取得(2005年9月の記事参照)。免許取得のための事業計画は同年の夏ごろから策定を進め、携帯電話メーカー各社に新規参入のあいさつ回りを進めていた。「シャープに話をしに行こうとしたら、『W-ZERO3』が発表された」(松坂氏)のだそうだ(W-ZERO3の発表は2005年10月)。

 そのシャープが、イー・モバイルとの話し合いの中で後にEM・ONEになる端末企画を提案。メーカー側からの提案であれば、シャープ側には発表直後のW-ZERO3が念頭にあったのだろうか? シャープの丸山氏は、W-ZERO3の影響を否定する。

 「開発チームはキャリア別に厳密に分けられており、ウィルコム担当チームとは別に検討した結果です」(丸山氏)。丸山氏本人もW-ZERO3の存在を知ったのは、メーカーの発表後だったと振り返る。その中でWindows Mobileを採用したのは、イー・モバイルが提供する下り最大3.6Mbpsという高速通信を生かすため、どのような端末を開発すべきか検証した結果だという。

 「端末の企画も別ですが、開発についてもやはり別行動です。シャープとして端末開発の要素技術は共有されていますが、製品にかかわる部分はチームごとに独立している。EM・ONEの開発も同様で、先行のW-ZERO3とは別にゼロから開発しました」(丸山氏)。W-ZERO3に使われている技術のうち、基本的な部分はEM・ONEも使われているが、W-ZERO3の影響や関連性は非常に薄い。というわけだ。

 EM・ONEにQWERTYキーボードを搭載することは2006年の3~4月ごろに決まり、Webブラウジングを快適に行うタッチパネルやポインタの採用も固まっていた。大まかな全体像は2006年5月ぐらいには決定し、2006年7月には仕様が完成していたという。

“ただのPDA”だったら余裕があった


“ただのPDA”だったら余裕があった

photo シャープの丸山氏は、イー・モバイルからのむちゃなお願いも「すべてお答えした」という

 「“ただのPDA”だったら余裕のスケジュールでした」と、丸山氏は開発期間を振り返る。ところが、EM・ONEには各種の通信機能を内蔵しなければならない。実質7月からスタートしたモバイルブロードバンド端末の開発期間は「正直、短かった」(丸山氏)と、その苦労をにじませる。

 イー・モバイル側としても、「かなりむちゃを言った」と松坂氏。特に“ワイドVGA(800×640ピクセル)液晶を搭載したい”という要求では、OSであるWindows Mobile自体がVGAより高い解像度をサポートしておらず、シャープだけでなく、開発元のマイクロソフトに対応してもらう必要があった。

 端末の薄さについても、イー・モバイル側の要望はかなり強かった。福山氏は「最初の提案から、とにかく薄くしてほしいと求めた」と話す。薄さの基準はスーツの内ポケットにも入るというもので、当初シャープが提案した22~24ミリ程度の厚みでは基準に達しておらず、さらなる薄さを求めた。

 この要望はシャープの想定を超えるもので、改善には非常に苦労したという。「奈良(事業所)の製品では恐らく初めて」(丸山氏)となる、タッチパネル液晶の表面の高さと筐体の高さがフラットになる技術を急きょ投入し、18.9ミリというスリムボディを実現した。

 EM・ONEは、W-CDMA/無線LAN/Bluetooth/ワンセグと4つのアンテナを内蔵しており、丸山氏が「それを配置するのが一番大変だった。内部はアリも通れないぐらいピチピチです」というほど、部材や部品が組み込まれている。

photo いくつものセールスポイントがある「EM・ONE」。手にすると、その薄さが印象に残る

 ただ、この薄型化によって、バッテリー駆動時間は短くなってしった。これに関しては開発陣も認めており、大容量バッテリーをオプションで用意することに加え、クレードルに予備バッテリーの充電スロットを備えるなど、できる限りの工夫をしている。

 ちなみにEM・ONEのバッテリー駆動時間は、標準バッテリーで約4時間、大容量バッテリーで約7時間。これは通信時間3分、操作やデータ閲覧を 27分行った場合の連続駆動時間だ。携帯電話の「待受」に相当する概念がないため、この駆動時間がバッテリー寿命の目安になるだろう。ワンセグの連続視聴時間は、出荷時の液晶輝度で約2.8時間。松坂氏は、「日常のオフィスワークでは全然問題ない」とバッテリーの持ち時間を説明する。

photophotophoto オプションの大容量バッテリーを装着したところ。厚さは約24ミリで、当初シャープが提案した数値に近くなる。これでも十分薄い

一番の“ヘビーユーザー”は、イー・モバイルの千本会長

photo 「EM・ONEは大画面とWebブラウジング、定額制とHSDPAのサービスがバランス良く融合した端末」と話す福山氏

 EM・ONEのデザインの最大の特徴は、端末が2カ所スライドしてQWERTYキーボードとポインタが現れるデュアルスライド機構だ。 QWERTYキーボードがスライドするデザインは、W-ZERO3をはじめ海外でも比較的よく見られるが、2方向にすることでより目立つ特徴にしたかったという。

 イー・モバイルは、2005年末に携帯電話のコンセプトモデルのモックアップを公開しており(2005年11月の記事参照)、そのコンセプトを伝えたところシャープ側からデュアルスライド機構の提案があった。

 提案したシャープ側も、「薄型化と平行してデュアルスライド機構を開発するのは、初めてのトライなので難しかった」(丸山氏)というほどチャレンジングな取り組みだった。強度を確保するため、部品開発のグループと密接に協力して、薄さと2方向の動きを両立させたのだ。

 イー・モバイル側では、タッチパネルがなくても操作できるようにポインタを搭載するといった機能を求めていた。多くのユーザーはPCに親しんでいるので、なるべくPCに近い操作性と、電車移動中のように両手で操作するのが難しい場所でも片手で使いやすいような操作性を想定したからだ。

 ワイドVGA液晶や薄型化というイー・モバイル側の「むちゃなお願い」だが、シャープが飲まざるを得ない“最後の一押し”があって通ったことも多いという。それは、イー・モバイル 会長 兼 CEOの千本倖生氏自らの折衝だ。「シャープさんと打ち合わせをしてると、トップ(千本氏)が気軽に丸山さんのところへ出向いて、“切なるお願い”をした」(松坂氏)。

photophotophoto オプションのクレードルとRGBアダプタ(左)。クレードルは予備バッテリーの充電スロットを備える(中央)。ACアダプタも小型化しており、容易に持ち運べるサイズ。厚さが本体と同じになっているなど、細かい配慮がうれしい(左)

 そうして作られたEM・ONEは、忙しいビジネスパーソンが、合間の時間に情報を得るのに最適な端末に仕上がった。想定するターゲット像にぴたりと当てはまる千本氏本人が、試作機を何度も借りて試用しフィードバックを行った。開発段階で一番のヘビーユーザーが千本氏だったそうだ。

 開発会議に顔を出し、試作機を使い込んで要望を出す。こうした千本氏の行動に丸山氏らシャープ開発陣も、「(事業所のある)奈良にも何回も足を運んでいただき、気合いを感じた。日を追うごとに重要なプロジェクトだ実感しました」という。「千本さんのような方(キャリアのトップ)から、直接お願いされると、“イヤ”とはいえない。ご要望にはすべてお答えしました(笑)」(丸山氏)。

 ワンセグを内蔵している点も、EM・ONEの特徴の1つ。最近はワンセグ対応の携帯電話も増えてきているが、EM・ONEではワンセグを、“情報を得る手段”として搭載したという。

 これはイー・モバイルサービスのエリアが、開業直後は限定的という点も影響したようだ。「キャリアにとっては、通信可能エリアも商品」(松坂氏)であり、それが他社に比べて限られるイー・モバイルとしては、無線LANやワンセグは絶対に載せておきたい機能だった。

 ところで、EM・ONE発売直前になって、マイクロソフトからWindows Mobileの最新バージョンWindows Mobile 6.0が登場した(2月13日の記事参照)。しかし、ワイドVGA表示はWindows Mobile 6.0でも標準では対応しておらず、「EM・ONEの機能が劣るとは思っていない」(松坂氏)という。

 イー・モバイルはEM・ONEの仕上がりについて、「大画面とWebブラウジング、定額制とHSDPAのサービスがバランス良く融合した端末」(福山氏)と胸を張る。主にビジネスパーソンを中心に、Webブラウジングの大画面やポインティングデバイス、QWERTYキーボード、高速な通信などといった操作の快適性を訴えていきたい考えだ。

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* 写真で解説する「EM・ONE」(機能編)写真で解説する「EM・ONE」(機能編)

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[小山安博(聞き手:平賀洋一),ITmedia]

         

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