小型化優先しブルートゥースは断念・「アドエス」開発者インタビュー
ウィルコムが19日に発売する注目のスマートフォン「アドバンスドW-ZERO3[es]」(アドエス)。製品レビュー(前編・後編)に続き、今回はW-ZERO3シリーズの開発に一貫して携わってきたウィルコムの須永康弘サービス計画部課長に、アドエス開発中のエピソードやスマートフォン市場の今後について話を聞いた。
http://it.nikkei.co.jp/mobile/news/index.aspx?n=MMIT23000011072007
――新機種が「W-ZERO3[es]」(エス)の流れを継ぐものになった理由は?
須永康弘氏:「W-ZERO3」は法人向けの需要が大きく、モデルチェンジが必要な状況ではなかった。それに対してエスは、携帯電話をリプレースする目的で開発した機種であり、主なターゲットは個人層。半年に1回モデルチェンジするほかのキャリアの製品と比べると、さすがに魅力が薄れてきていた。また、各キャリアがスマートフォンという市場に積極的になってきたこともあり、「次の一手」が必要になった。
――エスに寄せられた不満の中で、アドエスでどうしても解決したいと思ったポイントは何か。
<拡大>
手のひらにすぽっと収まるコンパクトボディ
須永氏:「大きい」「使い方がわからない」という2つの不満が、一番大きかった。大きさについては、普通の携帯電話並みの幅と厚さを実現し、十分に満足してもらえると考えている。しかし使い勝手の向上については、製品の性格上「今まで使ってきた携帯電話」との比較になるため、これを改善するのは本当に難しい。
携帯電話で使ってきた電話帳を赤外線で伝送できるようにしたり、音楽配信や各種エンタテインメント、プッシュ型のニュース機能を搭載したりしたのは、「ビジネス用途に特化した端末」というイメージを払拭し、個人ユーザーにとってより身近な端末にしたかったからだ。
ただし、スマートフォンらしい部分も失ってはならなかった。企業メールとの連携性や充実したインターネットツール、オフィス環境との親和性などがその代表例だ。こういった部分を損なわず、「欠けている部分を補う」ことが、今回の最大の目標だった。
――逆に、落とした機能の中で一番残念に思っているものは何か。
<拡大>
外付け型のワンセグチューナーユニットをラインアップしている
須永氏:ワンセグ機能とブルートゥース機能だ。このサイズを実現するうえで、どうしても削らざるを得なかった。
ワンセグに関しては、本体を大きくして標準実装するよりは、必要に応じてオプションの外付けチューナーを選択してもらうという形で対応した。ブルートゥース機能は、チップやアンテナの実装だけでなく、感度を高めてノイズを低減する工夫など、さまざまな方策が必要になる。先代のエスで搭載できなかったのも、この辺のハードルが高かったせいだ。
しかしブルートゥースを搭載できれば、パソコンとの連携性や本体の拡張性が飛躍的に高まる。最後まで迷ったポイントで、実際にブルートゥースを搭載した試作機も開発してもらっている。ただ、できあがったモデルはエスよりも5ミリほど高さが増えてしまい、「さすがにこれはないな」と。
今回の開発における最大の目標は「小さく、薄くすること」であり、プライオリティーを考えれば断念せざるを得なかった。もちろん、ユーザーの要望が大きいことは理解しており、今後の開発目標の重要なポイントと考えている。
――電話機能には大きな変化がないようだが。
須永氏:特に電話帳検索の自由度が低いのは承知している。ただ、これを改善するためにはOSの根幹部分を改修しなければならず、アドエスの開発スケジュールでは手を加えることができなかった。ATOKによる高度な予測変換機能とインクリメントサーチ機能を実装しているので、検索機能自体は十分なものを用意したと考えている。
――「ウィンドウズモバイル6」以外のOSを採用して改善、という選択肢は?
須永氏:製品構成としての連続性、ビジネス用途への適応性を考えると、現状ではウィンドウズモバイル6がベストの選択肢だと思う。現状のスマートフォン用OSで、オフィス2007のファイルを閲覧、編集できるのはウィンドウズモバイル6だけだ。メールやウェブサイトを閲覧するだけでなく、会社の書類を出先で確認したい、というビジネス用途を求めるユーザーが重要なターゲット層である以上、そこを無視するわけにはいかない。
また「自由な発想でソフトを作り、自分たちで使いやすくしていく」ヘビーユーザーたちの尽力なしに、ここまでの状況は生まれなかった。ウィンドウズモバイル6をベースとしたフリー&シェアウエアのコミュニティーは、さらに大きく広がりを見せており、ここで彼らの期待を裏切るわけにはいかない。
<拡大>
パソコンに近いレイアウトでウェブサイトを表示できるオペラモバイル
ただし、だからといってウィンドウズモバイル6の各種ソフトウエアパーツがベストだと考えているわけではない。ウェブブラウザーとしては、機能性とレイアウト等の再現性を考えて「オペラモバイル」をインストールしているし、メールクライアントはほかのソフトとの連携性に優れた「W-ZERO3メール」を追加でインストールしている。ユーザーから見れば「同じ役割のソフトをなぜ複数入れているのか」という話になるし、プリインストールするにはライセンス料が発生するため、コスト面でも不利だ。しかし、アドエスをよりよく使ってもらうためには、必要な措置であると考えた。
――他社のスマートフォンをどうとらえているか。
須永氏:NTTドコモ、ソフトバンクモバイルなど、今までに比べればスマートフォンをラインアップに加えるキャリアが増えてきている。日本でスマートフォンという市場を切り開いた我々としては喜ばしいことであり、つぶし合うような状況には持っていきたくない。1000万台規模の携帯電話市場の中で、スマートフォン市場はせいぜい数十万台程度だ。できることなら、お互いに協力し合って市場を拡大し、スマートフォンのメリットをアピールしていきたい。
――海外ではアップルのiPhoneが大きな人気を呼んでいるが。
<拡大>
本サイトで「ケータイ業界事情」を連載中の石川温氏は、iPhoneを買うためにハワイまで飛んだ
須永氏:私自身も非常に強い興味がある。1日も早く実際に使ってみたいところだが、実際上アメリカでしか使えないという縛りもあって、なかなか「一歩」を踏み出せない(笑)。
特に興味があるのはユーザーインターフェース。操作をしやすくするための工夫として、大画面のタッチパネルや「フリック」といった新しい操作方法を導入し、画面構成も今までのスマートフォンとは大きく異なっている。我々も今まさに苦労している部分だけに、その実際を早く確かめたい。
今までのユーザーインターフェースにこだわる必要のないアップルだからできたことなのかもしれないが、ああいう発想と設計思想が浮かび、それをきちんと形にしてしまうことがすごいと思う。
――商品の準備状況はどうか。
ウィルコムストアで6月26日に行ったプレ予約(予約サイトに優先して入れる権利を取得するための登録作業)では、午前9時に開始してからわずか6分間で、準備した権利分が終了してしまった。6月29日から7月1日まで行った実機体験イベントでも非常に大きな反響を得ており、期待の大きさは実感している。そのイベントでは当社の喜久川政樹(社長)が「今回はお待たせしない」と言ってしまっているので(笑)、シャープさんにがんばってもらっている。予約さえしていただければ、以前ほどお待たせすることはないだろう、という見込みだ。期待感の高いユーザーに対して不満を与えないよう、努力していきたい。
[2007年7月12日/IT PLUS]