カーライル・グループの投資戦略とPE市場の展望
2007年12月に開催したIBSファイナンス研究会におけるカーライル・グループ安達代表の講演の要旨をご紹介いたします。
http://www.insightnow.jp/article/970
2007年12月11日にIBSファイナンス研究会(12月特別イベント:プライベート・エクイティ投資の未来)を虎ノ門パストラルにおいて開催いたしました。講演会と交流会に100名近くの皆様にご参加頂きました。講演会の第1部では、カーライル・グループ マネージング・ディレクター・日本共同代表の安達保氏に「カーライル・グループの投資戦略とプライベート・エクイティ市場の展望」というテーマでお話頂きました。以下にその要旨をご紹介いたします。
カーライル・グループは1987年にアメリカのワシントンDCで設立された。投資企業は378社で、設立以来686社に投資している。現在、元IBM会長のルイス・ガースナーが会長を務め、約8.7兆円を運用している。投資先対象はメーカーを中心に消費財、産業財、自動車などで、投資額で見ると通信・メディアが最大となる。グループ投資先全体の売上規模で約10兆円となる。従業員は28万人以上となる。オフィスは33ヵ所、スタッフは910名超、投資家は66カ国1100グループの機関投資家、基金、年金基金などである。日本ではバイアウト・ファンド(1号・2号あわせて2156億円)、ベンチャー/グロース・ファンド(約800億円)、リアルエステート(約500億)を運用している。バイアウト・ファンドの投資先には2007年8月に東証1部に再上場を果たしたキトーやPHSのウィルコムなどがある。
カーライルの日本における投資方針の大前提は経営陣と一緒に経営改革を実現していくことである。また、敵対的な買収を行わないことを投資家に約束している。経営陣の続投、雇用の維持、売上・利益の拡大を目指している。投資期間は3年から5年としており、また、原則として51%超の株式を所有する。投資先に深くコミットし、主として社外取締役の参画を通じて経営陣との密接なコミュニケーションを図る。一般論としては経営陣とのコミュニケーションの失敗は投資の失敗につながることが多い。カーライルは投資回収後も長期にわたって企業が成長を持続できることを目指しており、また、日本におけるレピュテーションを重視している。投資回収後の企業の持続成長が長い目で見てカーライル・グループの投資の成功につながる。
カーライルの強みは日本企業の経営に精通した日本人のプロフェッショナルによるサポートとグローバルに展開するネットワークを活用した投資先支援である。
日本のバイアウト市場は2000年以降増加傾向にあり2006年には80件のバイアウト投資があった。2007年上期は前年並みのペースであるが、規模は小さくなっている。少ない案件に対して多くのファンドが入札に参加するため競争が激しくなっている。
市場環境としてはバイアウトの認知度が向上していて経営の選択肢としてのバイアウトの位置づけは向上している。2007年におけるバイアウト投資のエクジットは良好だった。サブプライムローン問題があっても日本においては負債の活用は比較的容易であった。一方で、アクティビストファンドが注目を集めるなどファンドに対するネガティブな感情がある。また。景気の好転によって企業リストラが減速して経営改善に対する意識が低下していること、MBOに対する一部の誤解などがネガティブな要因として指摘できる。
バイアウト投資においては、投資実行前に経営陣と十分話し合い成長のストーリーを作って、その上でガバナンスを利かせることが成功のポイントとなる。
投資事例1: キトー
カーライル・グループの投資実績としてキトーなどがある。キトーは、ホイスト/クレーン機器を開発・製造・販売している。国内シェア50%超の優良企業である。創業家の鬼頭家が代々経営権を掌握している。1980年に株式公開したが、2003年9月に創業家とカーライフでMBOした。従業員1280名、売上は約320億円(2007年3月期)。
当時は国内事業の頭打ち、不採算事業の存在などによる業績の停滞、グローバル展開の行き詰まりという状況にあった。米国事業や中国のジョイント・ベンチャーにおいてガバナンス体制・経営体制の改善余地もあった。こうした背景のもと、キトーは海外の競合他社などから一部出資を受け入れることを検討していた。
投資後、取締役5名のうちカーライルから3名を非常勤取締役として派遣した。従業員持ち株制度、ストックオプション制度、業績連動型報酬制度を導入した。米国子会社において新CEOを外部から招聘して事業を再構築した。中国におけるマイノリティ投資先を子会社化するなど中国事業を強化した。
人員削減はしていない。MBO時の2002年度のコア事業の売上高163億円は2006年度には318億円、経常利益は7億円から45億円に伸びた。キトーは再上場を通して株式市場へのアクセスを得るとともに、社会信用・知名度の更なる向上をはかり、真のグローバルNo.1ホイストメーカーを目指している。
投資事例2: ウィルコム(DDIポケット)
KDDIのコア事業であるauと(携帯事業)の競合によってウィルコムのPHS事業は親会社の事業において利益相反を起こしていた。成長に向けての経営資源投入が困難な状況にあった。カーラールのテレコムグループには通信業界における経験豊かな人材が多い。彼らの協力も得て現経営陣とともにウィルコムのMBOを実行した。PHSは、マイクロセルシステムを基盤としている。これはトラフィックの多い地域にも高品質のサービスを提供できる強みを持っている。全国に16万の基地局を持つことは大変な資産であり、重大な参入障壁となる。
カーライルは米国、日本、アジアのファンドからウィルコムに共同投資を行った。投資額600億円のうち360億をカーライルが出資している。京セラ(30% )とKDDI(10% )も出資している。元ネクステル社CEOとして経営再建を果たしたアーカーソン氏と元ベライゾンの副社長のアットウッド氏がカーライルからウィルコムの非常勤取締役に就任している。2005年2月にDDIポケットからウィルコムに社名を変更した。2900円の定額音声通話サービスを業界に先駆けて2005年に導入した。シャープ、マイクロソフトとスマートフォンを共同開発して2005年12月にWZERO3を発売した。データ通信速度の高速化を実現した。また、非公開LBO企業として初めて7年普通社債を発行して350億円を調達するなど、財務体質の安定化を実施している。加入者数、売上ともに順調に拡大しているが、携帯電話との競争が激化する中でPHS事業の更なる拡大をいかに実現するかを現在考えているところである。
○ 敵対的買収をせずに既存の経営陣を最大限尊重すること、人員削減による収益改善ではなく事業成長を重視していること、エクジット後の投資先企業の持続成長を重視していることなど、中長期的な視点で、投資先はもちろん、業界や社会と良好な関係を維持・構築することに注意を払ってカーライル・グループが投資を行っていることが安達代表の講演から伝わってきました。