イー・モバイルの21世紀戦略
モバイルブロードバンドで主役を目指す
[2008-02-29 17:58:42]
http://kigyoka.com/kigyoka/public/news/news.jsp?id=834
千本倖生会長
世界は今、情報革命の只中にある。ブロードバンド化されたインターネットはわれわれのビジネスやライフスタイルを根底から変えて行く。ネットビジネスの主戦場が携帯分野に移って行く中で、急浮上しているのが最新鋭の技術を駆使してモバイルブロードバンド環境の実現を目指すイー・モバイル。会長の千本倖生は「既存3社とは全く違う携帯会社を創り、日本をブロードバンド先進国にする」と豪語する。第二電電(現KDDI)、イー・アクセスを創業、成功に導いた通信ベンチャーの旗手はあまたの困難を乗り越えて、“第3の創業”に挑む。 (文中敬称略)
2008年2月のある朝。東京・虎ノ門にある新日鉱ビルのイー・モバイル本社。同社の会長室で、いつものように千本倖生は販売実績表を手にした。1月の契約数は3万2600、これで累計契約数は23万8500件。「予定通り目標を実現できそうだ」。千本はそうつぶやきながら満足げに窓外のビル群に目を向けた。
イー・モバイルがNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイルに続いて、第4の携帯会社としてサービスを開始したのは07年3月31日。すでに先行3社はドコモ5315万、au2955万、ソフトバンク1761万の顧客を獲得、遥か先を走っている。第4の携帯会社が今からスタートして、熾烈な携帯戦争に勝てるのか危ぶむ声が多かった。こうした声をよそに、千本は「うちは単なる携帯電話会社ではない。今後主流となる高速データ通信の携帯会社を目指す」と宣言、1年間の契約目標件数を30万件とした。
ソフトバンクが派手な宣伝をバックに月額料金980円のホワイトプランなど、低価格攻勢をかける中で、イー・モバイルは一番安いプランでも月額料金2480円のライトデータプランを掲げてスタートした。データ通信分野での初年度30万件の獲得は難しいの最新鋭のブロードバンド通信端末「EM・ONE」を手にする千本倖生9・KIGYOKA CLUBではないか、というのが大方の予想だった。マスコミの関心も先行3社の音声通信の戦に注がれがちで、イー・モバイルへの関心は薄かった。
ところが、イー・モバイルは大方の予想を裏切って、快進撃を続けている。月を追うごとに契約件数を増やし、12月は遂に月間4万件の大台を突破した。1月はUSBタイプのデータカードが品薄となる嬉しい誤算が生じ、3万2600件と4万台には届かなかったが、2月は再び4万台を突破する勢いだ。このまま推移すれば、初年度30万件突破は確実と見られる。千本は販売実績表を見ながら、2年前の資金調達のことを思い出した。
ゴールドマンから出資を受ける
06年初頭、千本はエリック・ガンらスタッフとともに、米国のゴールドマン・サックス(GS)の国際投資委員会の会議室にいた。ADSL(非対称デジタル加入者回線)のサービス会社、イー・アクセスで成功した千本は次の事業目標として、インターネットのブロードバンド環境をモバイルでも実現しようと、05年1月にイー・モバイルを設立した。同社は今後主流になるであろうデータ通信をモバイルで実現するもので、事業資金が3000億円強必要であった。イー・アクセスで成功を収めたものの、事業規模が1ケタ違うこともあって、外国企業の資金から投資を仰ぐ必要があった。千本たちが白羽の矢を立てたのがGSである。
GSは世界の金融界を震撼させているサブプライム問題でも痛手を受けないどころか、この問題を逆手にとって利益を稼いでいるウォール街の名うての投資銀行。それだけに投資のための審査は厳しく、ベンチャー企業にとっては最難関の投資銀行といえる。
GSの投資委員が居並ぶ中で千本は数カ月をかけて作成した700ページに及ぶ事業計画書を基に、イー・モバイルの事業がいかに野心的で、市場性に富み、しかも同業他社に比べて自社が優位であるかを流暢な英語で説明した。途中、GSの投資委員から容赦ない質問が矢のように飛ぶ。千本は笑みを浮かべながら、しかし、誠実に一つずつ質問に答えて行く。約2時間のプレゼンテーション。投資委員たちの納得した表情を見て、千本は投資決定を確信した。それから数週間後、GSから「ミスター千本とミスターエリック・ガン(現イー・モバイル社長)が一丸となって取り組むなら、GSはこの事業に投資させていただこう」とのゴーサインが届いた。
全体のエクイティファイナンス1432億円のうち、35・7%に当たる約511億円をGSが出資することになった。あとはトントン拍子で進み、シンガポールの投資会社、テマセクが8.3%の119億円を、残りをウッドパーカーグループ、ニューワールドTMT、三井物産などが投資した。この資金を元に金融機関からの融資2200億円を調達、合計3632億円に達した。まだ、事業に着手していないベンチャー企業が3600億円強もの大金を集めるのは日本では初めてのことである。
明日のネットワーク構築
世界の投資会社を納得させたイー・モバイルの事業構想はどういうものか。同社のサービスはドコモのような音声サービスではない。机上のパソコンでやり取りしている文章や画像などを戸外でも自由に送受信できるデータ通信サービスを主力にしている。同様のサービスをウィルコムが提供しているが、通信速度が最大512kbpsと遅い。これに対し、イー・モバイルのそれは7.2Mbps、ウィルコムの15倍弱の速度を誇る。当然、最新の設備を導入している。ネットワーク構築はエリクソンと中国のファーウェイの両社を起用、端末の「EM・ONE」はシャープが担当、端末に搭載する基本ソフトはマイクロソフト製、半導体は「携帯業界のインテル」といわれる米クアルコム製という具合に最先端技術を使っている。「当社は明日のネットワークだ」と千本は自慢する。(下に続く)