意外と知らない組み込みシステムの種類
「組み込みシステム」という言葉が指し示す範囲は幅広い。では、どのようなものが組み込みシステムに分類できるのだろうか。今回は、ハードウェア構成から考察する。
[大原雄介]
http://techtarget.itmedia.co.jp/tt/news/0808/04/news02.html
日本語では「組み込み」と称される組み込みシステムのマーケット。一般的には携帯電話や自動販売機、POS端末(販売時点情報管理端末、要するにレジスターだ)、プリンタ辺りが連想されると思うが(そしてそれは間違いではないが)、これらは組み込みシステムのマーケットのごく一部でしかない。それともう1つ、組み込みシステムだからといって何か特殊なハードウェア(あるいはプラットフォーム)を利用しているとは限らない。実のところ、サーバやPCなどとほとんど変わらないものが大幅に増えつつある。
では、「組み込みシステム」というマーケットはどのようなものなのだろうか。簡単にふかんして見ていこう。今回は、主にハードウェア構成から見た組み込みシステムについて触れていく。
用途面からシステムを分類してみよう
そもそも、組み込みシステムというカテゴリーにどのようなものが含まれるのかを考えてみると、限りなく広範囲にわたっている。いわゆる全般的な意味での「システム」と区別が付かなくなっている部分もある。ある意味、明確に違うといえるシステム以外の「そのほかのシステム」=「組み込みシステム」と、とらえられてしまうかもしれない。しかし、そのように理解してしまってよいものだろうか。
ここでは、用途面から見て簡単に分類した全体像をまとめてみた。それが以下の図である。一般的な読者、つまり組み込み開発に携わっていない読者からすれば、図の右側は理解しやすいのではないだろうか。
IT業界の視点から「システム」を規模別に分類すると、図の中央(矢印の部分)のようになる。もちろん、IT業界に携わっている方なら既にお分かりだと思うが、それぞれがどのようなシステムを指すのか簡単におさらいしておく。
スーパーコンピュータ
一番上に位置するのは、膨大な処理時間を必要とする処理システムだ。例えば、主要コンピュータメーカーが提供するハイエンドクラスタ(最近だとここにPCを持ち込んでのクラスタも増えてきた)や、NECの「Vector Highlights」などがそれに当たる。CFD(Computational Fluid Dynamics:コンピュータを使っての流体解析)や分子解析、タンパク質の合成分析、天体シミュレーションを行うシステムがこのカテゴリーに属する。
メインフレーム
その下にくるのは、日本アイ・ビー・エムのメインフレームシリーズの1つ「System z」などのような、いわゆるエンタープライズ向けのシステム。主に、SCM(Supply Chain Management)やエンタープライズクラスの会計システムなど、大規模な業務システムとして使われる。一部のノンストップトランザクションエンジンなどもこのカテゴリーに入るだろう。
PCサーバ
その下には、PCサーバを組み合わせたシステムが位置する。最近はWebベースで業務システムが動いていることも多いため、エンタープライズ用途のデータベースや一部のシステムはメインフレームで動いていても、フロントエンドはPCサーバという例は多い。シンクライアント(thin client)を多数利用するところでは、クライアントと対になるサーバもここに含まれることになるだろう。
PC/シンクライアント
その下にPCやシンクライアントが位置する。小規模企業ならば、PC1台で事足りてしまうケースもあるだろう。大規模企業においても一般ユーザーが日常的に使うのがこのクラスだ。
PDA、携帯など
一番下に位置するのが携帯電話やPDA、あるいはIA(Internet Appliance)と呼ばれるたぐいの機器だ。一般的には、ここのクラスに属するものを「組み込み(Embedded)機器」と認識している方が多いのではないかと思う。しかし、一番下のクラスに属するものだけがEmbedded機器に当たるわけではない。
規模別、具体的に見る組み込みシステムの例
では、「組み込み」の視点から見るとシステム区分はどのようになるのか。マクロな見方をすれば、メインフレーム以下のすべてのシステムは組み込みシステムと表現することができる。それはどういうことか。イメージしやすいように例を挙げていく。
大規模システム
まず、メインフレームクラスを見てみよう。火力、水力、原子力などの発電所の制御、JRや大きな私鉄、高速道路などの運行管理などは、間違いなく組み込みシステムのカテゴリーに入る。銀行の決済システムなども組み込みシステムに分類できる。化学プラントや工場における生産管理システムなどもそうだ。
こうした大規模システムの場合、個々の機器だったり、下手をするとバルブの1つひとつにコントローラーがついていたりしかねないが、それら全体を協調させて動かすためにはPC程度のシステムでは到底追い付かず、メインフレームクラスの機材がいまだに使われている。これらのシステムは大抵、性能もさることながら信頼性の高さも求められる。なぜなら、何らかの障害が発生したときのコスト損失が多大になるものが多いからだ。中には、「1回止まると数十億円」「1分停止するごとに何千万~何億円」といった損失を生み出すシステムすらある。
中規模システム
その下のPCサーバのマーケットを見てみると、用途はさらに広がる。小規模の生産管理やライン制御などに加え、最近では通信関係でもPCサーバが採用されている。より具体的に言えば、ATCA(Advanced Telecom Computing Architecture)という通信事業者向けのハードウェア規格に沿った製品だ。
ATCAは、建前は「異なる通信機器のベンダー間の相互運用性を向上させるために機械・電気的規格を統一する」というものだが、規格が定まるとすぐに、CPUやチップセット、メモリなどをPCサーバ用コンポーネントから持ってきた製品が大量に出現した。それらは、機械的形状を除けばほぼPCサーバと違いがない。現状、こうしたものがエッジルータや、場合によってはコアルータの一部にまで採用されつつある。SAN(Storage Area Network)ルータなども同類だ。中を開けてみたら単にPCサーバが入っていたということも珍しくない。「PCサーバとの違いはファイバーチャネルのインタフェースと10Gビットイーサネットのインタフェースカードの追加のみ」などという製品が一般的になりつつある。
小規模システム
さらに小規模の製品となると、大半が「PC」である。しかも、「PC用のコンポーネントを使って組み上げた」のではなく、PCそのものであることすら珍しくない。特に多機能なものは中にPCがそのまま入っているものもある。例えば、リアルタイムで在庫管理ができたり電子マネーの決済機能が付いている自動販売機や、アーケードゲーム機、銀行や郵便局などのATM(現金自動預払機)、POSなどがそれに当たる。
特に、台湾 VIA Technologyが開発した「Mini-ITX」というマザーボードの規格を使うと、従来のPCより一回り小さいPCが簡単に作れる。その結果、従来はサイズ的に難しかった家庭用の多機能受信端末(STB:Set Top BoxやHDDレコーダーなど)にもPCとほぼ同等の構成の機器が使われるようになっている。これらは言うまでもなく、組み込みシステムのカテゴリーに属する。
一番下に属するカテゴリーを見てみると、携帯機器はもちろんのこと、現在は洗濯機や冷蔵庫、炊飯器、掃除機といった日常生活家電にも専用のEmbeddedコントローラーが搭載されている。サイズが小さいものが多いため、PCそのものではなく専用のものが使われる。ただ、2008年7月にウィルコムが発表した次世代モバイル「WILLCOM D4(ウィルコム ディーフォー)」にはWindows VistaやOffice 2007が搭載されている。こうなると「PC」と呼べない理由はにわかに思い付かない。こうしたマーケットにすらPCが侵食を始めている象徴と言ってもよいだろう。
ここまででお分かりの通り、「そのほかのシステム=組み込みシステム」という図式は、少なくともハードウェア構成から見る限り成立しない。なぜなら、組み込みシステムに分類されるシステムは非常に広範囲にわたっているからだ。
使用方法から判断すると分かりやすい
一般的に同意されやすい組み込みシステムの定義としては、「特定用途向けに設計あるいは製造されたシステムを『組み込みシステム』と呼ぶ」ということになるだろう。例えば、上述したアーケードゲーム機。中に入っているPCそのものは組み込みシステム向けに製造されたとは言い難い。言うまでもなく、PCは汎用のものだからだ。しかし、アーケードゲーム機の製造ベンダーがそのPCを筐体に組み込んでソフトをインストールし、操作パネルを接続するという過程を経ることで、アーケードゲーム機の中に入ったPCは特定のゲームを動かす専用機器となる。そのPCで、例えばMicrosoft Officeなどを動かしたりすることはできなくなる。こうした「特定の用途専用になった状態」を指すものが組み込みシステムと考えるのが一般的には妥当と考えられている。
ここまで、ハードウェア構成を中心に規模別に組み込みシステムを定義できるかどうかを見てきた。では、ソフトウェア面から見た組み込みシステムとはどのように区分けできるのだろうか。後編では、ソフトウェアから見た組み込みシステムと、昨今の組み込みシステムのトレンドおよび今後の組み込み業界の展望について見ていく。